書評<自然素材を使った理想の家とは>

欧米には、「家は代々受けついでいくもの」という考えが根づいています。メンテナンスとリフォームを繰り返しながら、100年以上住みつがれている家を欧米で数多く見て、日本の家づくりとは根本的なところで考え方が違うと感じました。欧米では、住む人のことを考えた、愛着のわく家づくりが基本です。
現代の日本の住宅は、その大切な基本を忘れているように思えてなりません。効率とコストダウンを追い求めた結果、一番大切な、住まう人のことを考えた家づくりがされてきました。それが今、シックハウス症候群に象徴されるように、住まいによって健康が損なわれる事態すら招いています。健康に、心地よく暮らせて、愛着を持って住める。そんな家のあるべき姿に、立ち戻るときに来ていると思います。
(嘉村正彦著「住む人が健康になる『本物の家』の建て方」より)

日本の住宅は約30年と、非常に寿命が短いものです。欧米では親から孫、3代に渡って使用され、自分の代で建て替えることは運が悪いとさえ言われますが、日本でそこまで愛された、幸運な家にお目にかかることは稀です。(京町家のような、歴史的な価値を持つ建物は例外として)

こうなった背景としては、戦後に焼け野原となった日本で、とにかく最低限住める家が大量に必要とされたこと。ハウスメーカーの工業化住宅が見事にその時代の要請にこたえたことがあります。

本書「住む人が健康になる『本物の家』の建て方」は、新建材が多用されがちな現代の家づくりに警鐘を鳴らす一冊。著者の嘉村氏曰く、新建材や工業化住宅が日本の家を悪くしたんだとか。彼は、本物の家の条件として、

1.「健康」に暮らせる
2.「長持ち」すること
3.「デザイン」がすぐれていること

の3つを挙げています。本書はこの条件を満たす住宅を建て、永く住み継いでいくことを主張しているのですが、本日はこの3条件について確認してみることとします。

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「健康」に暮らせること

家は誰でも長い時間を過ごす場所。夜寝るだけに家に帰る人でも、1日の1/4を過ごす場所です。故に著者は、住む人が健康に暮らせなければ本物とはいえないと主張します。化学物質や、ヒバのようなアレルギー物質を含む建材を避け、ビニールクロスよりも石灰、タイルよりも石を使用する。

特に、住宅の基本性能を左右する断熱材について、著者は「セルロースファイバー」の使用を強く勧めています。

断熱材には繊維系と発泡系の2種類に大別されますが、素材はグラスウールからロックウール、ウレタン、ポリスチレン、羊毛等様々。

セルロースファイバーは新聞紙から作られる繊維系の断熱材です。1,950年代にアメリカで開発され、日本では珍しいですが、アメリカではトップのシェアを誇ります。新聞紙と聞くと、羊毛などと比べ「寒そう」「燃えそう」と感じますが、実は高い「断熱性」「不燃性」、さらに「防音性」「調湿効果」「防虫効果」まで持つスグレモノ。(素材そのものの熱抵抗値は高くないのですが、壁に隙間なくみっちり詰められるため高性能)

比較的高価であることと、施工できる工務店が他と比べ少ないことが難点ですが、総合力ではトップの断熱材。確かにこの断熱材は、もっと普及していくべきですし、普及していくでしょうね。

ちょっと気になったのが以下の記述。

現在は快適な空調があり、いったん暖めると保温状態になる高気密・高断熱の住宅がもっともポピュラーになりました。その便利さに慣れて、日本人は歓喜をしなくなりました。喚起をしなくなったために、揮発性物質が建物内にとどまり、ますますシックハウス症候群が発症しやすい環境になってしまうのです。換気扇は非常に有効な装置ではありますが、対症療法的な手段に過ぎません。(52pより)

この記述については微妙ですね。高気密住宅で換気しなかったら確かに危険ですが、現代人が隙間風のビュービュー吹く家に暮らせるかと言えば「否」ですし、隙間から余計に化学物質が飛び散るでしょう。自然素材も大事ですが、やはり「高気密×24時間計画換気」も必須な気がします。

「長持ち」すること

ヨーロッパの住宅は、木造であっても何代にも渡ってリノベーションして暮らし続けます。古ければ古いほど、むしろ住宅の価格が、基本上昇するのは日本との大きな違いです。そうした長く住める家は、高価ではありますがトータルで考えればコスト面でも優秀です。

筆者いわく、「キズのついた無垢材フローリングも、時が経つほど光沢が出て味わいが増してきます」「経年変化によって味わい深くなるのが”本物の家”です」

そして、そのために「木材で建てる」ことを推奨しています。一見、コンクリートや鉄骨の方が長く持つ気がしますが、木材は経年変化で粘りが出て強度が増すのだとか。

経年変化を肯定的に捉え、「古くても価値の高い家」を建てようという考えです。現代のライフスタイルでは、子供が引っ越さずに実家に住み続けるとは限らないのですが、将来売却することを考えれば、これからの時代には確かに欠かせません。ただ、自然素材にはメンテナンスが欠かせないものも多いことと、メンテナンスフリーの建材も近年数多く開発されていることから、一長一短、適材適所であるようにも思われます。

「デザイン」がすぐれていること

建物は何十年も使用するもの。ファッションのように1年で飽きられてはいけません。著者は「無駄をなくして、シンプルで味わい深い家にする」のだと述べています。そのために自然素材が持つ「ゆらぎ」、不均一感に注目して素材を選ぶべきとも。

ただ、例として雨樋を外すことを挙げているのはどうなのでしょう?密集した住宅地で雨樋なしは難しいところがあります。ガルバリウム製の雨樋等、比較的シンプルで目立ちにくい製品を採用するのが現実的な落とし所では…

普遍的なデザインを用いるべきなのは確かですが、せめてもっと色々な例を見たかったですね。

総評

全体の主張としては、非常に的を射た内容だったと思いますが、細かい部分で気になる箇所が。

例えば、工業化住宅や新建材について非常に否定的でしたが、これらの普及は戦後の社会背景があってのものだし、工業化手法には建設コストを下げたり、安定した品質を供給可能にするプラスの面もあります。食べ物について「無農薬こそ正義」と農薬を全否定する人になっている印象は拭えません。

第三章の後半部分では、化学物質を否定する割に、エンジニアリングウッドには肯定的であること。デザインが大切という割に、コスト削減のため正方形の家を勧めていること。暮らしやすさを主張する割に、浴室の間仕切りにガラスを用いる手法を提案していること(間違いなく掃除が滅茶苦茶大変です)など、少々チグハグな感があります。第三章の後半は、嘉村氏のアイデア紹介のようになっていますが、ここは「そういう手法もあるんだなぁ」くらいに思っておいたほうが良いかもしれません。

ただ、注文住宅の理想の在り方として、的確な意見ではありました。注文住宅を建てることを考えている人は、読んで損にはならない内容でしょう。