書評<「正直不動産」勝手に解説!その3ーローン特約ー>

橋渡しをするのがわれわれの役目です
(「正直不動産3」より)

ユーモラスに「不動産仲介業」の実態を描く漫画、「正直不動産」。コミカルに描く分、用語の解説が少なかったり、素人目にも結構大げさに描写されている部分があると思い、正直不動産に登場した内容を解説するため立ち上げた今回の企画。



媒介契約、敷金返還請求と取り上げてきましたが、3回目は「ローン特約」を取り上げます。本来はサブリースを取り上げる予定だったのですが、こっちが先に書き上がってしまいましたので、予定を変更して更新いたします。


正直不動産(3) (ビッグコミックス)

目次
1.「正直不動産」融資特約 あらすじ
2.1.ローン特約の2つのタイプ
2.2.書面である必要性
2.3.親の都合による契約解除
3.まとめ

1.「正直不動産」融資特約 あらすじ

嘘のつけない営業マン、永瀬財地。彼の務める登坂不動産は販売強化月間にて、社員全員が気合を入れていた。

彼と営業成績で張り合う菅沼は、スマホを見ながら説明を聞く客、児島に「ローン特約」について説明し、いよいよ契約の段になるが、このままでは重大な誤解が生じると考えた永瀬が間に入り、契約は流れ、彼は上司の注意を受ける。

一週間後、永瀬は新たに登坂不動産を訪れた、小松夫婦に物件を紹介する。無事契約を済ませ、あとは融資の審査結果を待つばかりであった。ところが永瀬のもとに一本の電話が入り……

登場人物

永瀬財地
登坂不動産の敏腕営業マン。ある事件を機に社交辞令を含めた、一切の嘘がつけなくなってしまう。

菅沼
永瀬の先輩営業マン。営業に必要なのは技術と言うが、永瀬の成績を上回ったのは入社直後の他には1回だけらしい。


児島秀和
菅沼が担当した顧客。契約社員。長い説明を面倒臭がる、書類にシミを作っても気にしないなど、かなりズボラな性格。


小松夫婦
永瀬が担当した顧客。中野から三鷹への転居を検討している。親の援助を頭金にする予定だったが親が倒れてしまい、家の購入を諦めるのだが……

2.1.ローン特約の2つのタイプ

正直不動産の第十七話に登場する児島秀和。彼は担当についた菅沼からローン特約の説明を受けます。

不動産は高額商品であるため、通常はローンを組んで購入します。ただ金融機関の審査に受かるかは、結果が出るまで誰にもわからないのに、落ちた時に契約違反だと違約金を取られるのでは、買主にとってはたまりません。

そのため、現在はある特約をつけることが一般的です。その特約が「ローン特約」

「ローン特約」解説

ローン特約:土地や住宅などの売買契約時に買主保護のために契約の中に盛り込まれる特約。買主がローン特約の中で決められた期限内にローンの借入れができなかった場合は、買主は売買契約を白紙撤回することができ、買主がそれまでに支払った頭金などは全て買主に返却される。(出典:ローン特約(ろーんとくやく)とは – コトバンク)

ローン特約は買主を保護するための特約で、審査に落ちたら契約を白紙に戻せるというものです。「停止条件型」と「解除権留保型」の2つがある。

停止条件型:審査に落ちた場合、自動で契約が白紙になる

解除権留保型:審査に落ちた場合、契約を白紙にすると売主に伝えると白紙にできる

解除権留保型の場合、連絡を怠り期限を過ぎると違約金が発生する場合があるため、注意が必要になります。

菅沼は、児島に説明が長いと言われ、ざっくりとこう説明します。

「敗者復活戦アリ」というこの説明に納得して、児島は契約しようとするのですが、永瀬が割って入ります。

児島は手付金100万で、5000万円以上のローンを組もうとしていました。「ローンが通ったら買えばいい」くらいの考えだったためです。永瀬は「きっとあなたは、期限の直前での連絡に、電話で生返事するだろう。この場合、契約を解除したとは認められずに違約金を請求される」と言うのです。

2.2.書面である必要性

解除権留保型の場合、契約の白紙解除は電話では認められず、書面が必要になります。これはなぜなのでしょうか?

民法に、意思表示の方法を「郵送またはFAXで送るべし、他は認めない」と規定した箇所はありません。契約の解除について、意思表示の有無が問題になるのは、むしろ「書面」で送った時です。何故なら、面談や電話で意思表示したなら、「書面が届きませんでした」などの理由でイザコザが起こるはずもないからです。

つまり一般的に契約は、電話でも解除できることになります。

では何が問題なのかというと「立証」と「連絡先」です。

契約解除の立証

現実に口約束で契約解除すると、「言った言わない」のトラブルが起こります。そうなった時、証拠は当事者達の頭の中にしかありません。裁判ではどちらかに必ず立証責任があり、立証できなければ、それは認められません。

そして、「電話で話した」だけでは、絶対に立証にはなりません。(言ったモノ勝ちになってしまうので)
「契約は電話で解除した」
「いや、そんな話は聞いていないぞ」
となったら、契約解除は認められない=違約金もキチンと発生することになります。録音データでもあれば話は別かもしれませんが。

意思表示の連絡先

意思表示の連絡先も問題でした。
不動産売買における主な連絡先は、不動産業者です。だから彼も勘違いしたのでしょう。しかし、彼らの仕事は仲介で、売買契約においては第三者に過ぎません。
つまり、契約解除の意思表示は本来、不動産業者ではなく「売主」に伝えるべきもの。
不動産業者に「今回は諦めるわ」と電話口でぼやいたところで、売主には何も伝わっていません。
不動産業者を介して、書面を売主に渡して貰うか、売主に直接連絡を取って意思を伝えなければ、「相手方に意思表示した」とは言えないと考えられます。

ポイント

・不動産の売買契約は、売主と買主の契約
・当然、契約解除の意思表示は売主に対して行う
・売主に伝わらない方法では、意思表示したことにならない

ですので、マンガ内ではFAXが使用されていますが、私としては「売主に直接、内容証明郵便等で通知する」ことを推奨します。

2.3.親の都合による契約の解除

児島の一件の一週間後、今度は永瀬のもとに一組の夫婦が訪れます。

児島と違い、本気で家探しをしていた二人。スムーズに話は進み、契約に至ります。

ここで永瀬は保険として、金融機関名とその金利等を契約書に付け加えていました

この追記は児島の将来予想のようなケースで、違約金を避けるために、ノンバンク等、予定より悪い条件で金を借りることを防ぐためでした。

しかし不幸なことに小松夫婦は、夫側の父親が倒れ、親からの援助が受けられなくなってしまいます。

二人はローン特約を使って、契約を解除する旨をFAXで送信したのですが、何故か、手付金返却を拒否し違約金を請求する連絡が届いてしまいます。

 

 

理由は意思表示の文面にありました。「増額を申請した四菱銀行の融資が不能になったため、契約解除させていただきます。増額を申請した四菱銀行の融資が不成立となり、また二井銀行は増額に応じてもらえましたが金利が高いため、今回は融資申し込みをしないことにします。」

小松夫婦は永瀬が指定した文に加えて、余計なことまで書いてしまいました。永瀬が追記した、銀行名と銀行の金利が仇となり、この部分が通らなくなってしまったのです。永瀬は自分のミスが原因であると、自腹を切って二人を守ることとなったのでした。

親は理由にならない

実はここの記述にはちょっとしたミス(説明不足?)があります。永瀬は「親からの借り入れが不能になったので契約解除する」の一言で良かったと言うのですが、ローン特約は審査に通らかなった場合に備えての特約なので、基本的に「親」は解除理由になりません。今回は銀行が融資増額に応じてくれていますから、契約は成立すると考えるのが妥当です。

人と人との契約なので、絶対に認められないわけではないですが、これを正当な理由にすると、親と共謀すれば悪意を持った買主でも、自由に契約解除できてしまいますからね。なので、永瀬夫婦の余計な追記がなくても、特約が使えていたかはちょっと微妙だと思います。(一応、認められた判例(東京地裁H23/6/22)はありますが、マンガとは大きく状況が違っています)


(違約金を請求するかは、売主の意向や、売主と話す不動産業者の仕事にも左右される。しかしそれにしてもこの発言は完全に悪役のセリフである)

3.まとめ

・ローン特約は、ローンの審査に落ちた時の、買主への救済措置
・ローン特約は、自動で契約を無効にする「停止型」と、手動(買主の意思表示)で契約が無効になる「解除権留保型」がある
解除権留保型の場合、期限に注意が必要
・契約解除の意思表示は、不動産業者と電話で話すだけでは不十分。書面が必要
・ローン特約は、金融機関の審査に落ちた時の権利なので、親は関係ない

ちなみに、ローン特約について調べていたらこういうブログを見つけたのですが、今回の話とあまりによく似ていて驚きました。
「解除権留保型ローン」で地獄を見た人の話②|楽待不動産投資新聞
https://www.rakumachi.jp/news/practical/80492

ひょっとして作者の方もここを元ネタにして、話を作ったのでしょうかね?

次回は使用貸借契約を取り上げます。

おすすめ度: ★★★★


更新履歴

2018/09/28 目次と見出しの不一致を修正

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