雑記<どうして登記があっても詐欺にあうのか?ー登記の役割と効力ー>

積水ハウスの詐欺被害


(出典:読売新聞2018年3月23日)

積水ハウスが3月22日に、社内体制の強化を行う旨を発表したとの記事が、23日の読売新聞に掲載されました。発端となったのは昨年の6月に、積水ハウスが63億もの被害にあった、詐欺事件です。

積水ハウス、登記できず…「偽造書類に63億円」 – 産経WEST
http://www.sankei.com/west/news/170802/wst1708020087-n1.html

積水ハウスは、マンションの建設用地として東京都内の土地を購入したのですが、実はそれが他人の土地だったため、土地を手にできなかったのです。

この事件を通じて、経営陣は責任を追求され、会長であった和田勇氏は解任、トップが交代する事態にまで発展しました。

どうしてこのような事件が起こるのか?これは登記の内容と真実と異なっていた場合、登記を信用して取引し損害が生じても、国などが損害賠償に応じてくれるわけではないから(法律用語で「公信力がない」)です。

こう聞くと、登記を信じてはいけないのか?という話になります。登記とは何のためにあるのでしょうか?何故、登記には公信力がないのか?まとめてみます。

目次
1.登記の機能
1.1.登記の仕組み
1.2.対抗力と公信力の違い
1.3.地面師
2.まとめ

1.登記の機能

1.1.登記の目的

登記
[名]私法上の権利に関する一定の事項を第三者に公示するため、登記簿に記載すること。権利の保護、取引の安全のために行われる。不動産登記・船舶登記・法人登記・商業登記など。(出典:登記(とうき)とは – コトバンク)

そもそも「登記」とは何なのでしょうか?

登記は、安全で円滑な取引が行えるようにと作られてた、法制度の一種です。手続きは法務局が管轄しており、法務局に「登記申請」を行うと、自分の持つ「権利」を誰にでも見れる形で「記録」してもらえます。

権利の種類は色々あるのですが、2016年時点で全登記、約1340万件中、87%にあたる1160万件が不動産登記だったので(e-stat 登記統計 2016年より)、単に「登記」と言った場合は「不動産登記」を指すと言えます。

なぜ不動産登記がこれほど多いのか?それは不動産取引が、登記なしには始まらないからです。

例えば動産、バッグや財布なら、所有権を主張することは簡単です。ただ自分が持ち運べば良いのですから。しかし土地は持ち運べませんから、例えば「この空き地は私の持ち物だ」と証明することは難しいのですね。

だから法務局にあらかじめ「この空き地は私の持ち物だ」と記録を残しておく。こうすると、登記をした人に優先権が生じる(対抗力を持つ)のです。例えば、地主のAさんがBさんに土地を売ったという場合。Aさんが二枚舌を使って、実はCさんにも同じ土地を売っていた。このケースでBさんとCさんのどちらが所有者になるかは、どっちが先に登記をしたかで決まります。

登記とは、「自分の権利を世間様にきちんと見せびらかしておくため」に行われると言っていいでしょう。

1.2.対抗力と公信力の違い

では、登記があれば「真の所有者の証明」になるのでしょうか?これは残念ながら「NO」でした。

登記は書類さえ揃えれば名義を変えられますし、所有者が変わった時に申請する義務もない、「あなたのものですよ」と太鼓判を押してくれるものではない。ゆえに、「対抗力はあるけど公信力」はない、というのが日本の不動産登記制度なのです。(勿論、虚偽登記なんてそうそう起きることではないので、通常は登記がそのまま所有者の証明になりますが)

これが不動産取引においてどのような意味を持つか?

一言に直すなら、「トラブル時の優先順位を決定している」といったところでしょうか?

1.「真の所有者」と「登記を信じて無権利者から土地を購入した人間」では、真の所有者が優先される。登記は「国が保証した正しい記録」ではないので、国が被害者の損害を補填することもない。

2.二重売買などで「真の所有者候補」が複数でてきたら、最初に登記を手にした人間を優先する。

この1番のルールこそが「公信力がない」、2番のルールこそが「対抗力を持つ」の意味であり、公信力と対抗力の違いでしょう。

ちなみに海外の不動産制度ではどうかというと、日本と同じく「対抗力はあるけど公信力はなし」という国が多いです。例外的にドイツやイギリスは公信力がありますが、公信力がないことが悪い、とまでは言えなさそうです。

参考:法務省:我が国と諸外国の不動産登記制度における登記の真正担保のための方策について
http://www.moj.go.jp/MINJI/MINJI43/minji43-7-2.html

登記制度の問題があるとすれば、登記に義務がないことかもしれません。表題部の登記(新築時にする登記)を除き、基本的に登記には義務がない。相続などで所有者が変わっても、それを記録する必要もない。だから登記上の所有者と真の所有者が異なるケースも珍しくない。登記の信用性を大きく損なう原因になっていると、私は考えます。

1.3.地面師

土地に関する詐欺を専門とする詐欺師を「地面師」といいます。地面師はどうやって登記を改ざんするのでしょうか?

登記が「登記簿謄本」だったころ、紙媒体だったころは、
「法務局に忍び込んでバインダーをすり替えておく」
「謄本の閲覧を申請して職員の目を盗んで入れ替える」
というような原始的な手口がありましたが、登記が「登記事項証明書」に、コンピュータ管理になった現在はまず使えなくなりました。

ただし、彼らの手口は登記の改ざんだけではありません。むしろ、改竄の難易度が上がっている今は、「所有者に別人がなりすます」手口のほうが簡単かもしれません。実際、積水ハウスのケースでは、パスポート等を偽造して別人が手付を受け取る、「なりすまし」の手口でした。

積水ハウスが被害にあった詐欺の手口をまとめるとこうなります。


(画像:不動産詐欺の構造)

参考:積水ハウスから63億円をだまし取った「地面師」の恐るべき手口(伊藤 博敏) | 現代ビジネス | 講談社(1/3)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52480

この記事にも書いてあるのですが、厄介なのは関係者が「善意の第三者(事情を知らない第三者)」を装うことができること。民法を少しでもかじった人ならご存知だとは思いますが、騙されたり奪われたりしたものは、当人からは取り返せても、第三者に渡った瞬間取り返すことができなくなる。(詐欺の事情を第三者が知っていたと立証できれば別だが、頭の中のことなので立証はほぼ不可能)

「なりすまし」なら、登記の内容そのものを弄る必要がない。登記は役割をきちんと果たしているのだから、ひょっとすると悪いのは登記ではなく、「身分証明」と「本人確認」なのかもしれません。

2.まとめ

・登記は「自分の権利を事前に周囲に示しておく」ためのもの
・対抗力はあるが公信力はない、つまりトラブル時の優先権を規定するもので、所有者だと国が太鼓判を押してくれるものではない
・所有者になりすますタイプの不動産詐欺において、悪いのは「登記」ではなく「本人確認」

 

以前の更新から期間があいてしまいました。研究の備忘録くらいに捉えて、もう少し頻繁に更新したいですね。土地に関する制度は面白いので、継続的に調べていきたいものです。

 

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