マンガ「カイジ」で学ぶ建築<地盤編>

カイジの「ビル傾け」は可能なのか?

ギャンブル漫画として言わずと知れた「カイジ」
映画化などもされましたので、漫画を読まない人でも名前は聞いたことがあるのではないでしょうか?

そのカイジにて登場するギャンブルの一つ

 
千倍台、一玉4000円、パチンコの王、「沼」

この沼はカジノ側の仕掛けにより絶対に玉が出ないようになっていますが、カイジは「ビルを傾ける」奇策でこの沼を攻略します。

このトリックについては、ツッコミを入れた方は多いのではないでしょうか?あくまで創作作品ですから、細かいことを指摘するのも野暮ではあります。ただ、「たかだか20トンで建物が傾くのか」というのはかねてより疑問に思っていましたので、ちょっと調べてみました。(誤解ないよう言っておきますが、私は「カイジ」は大好きな作品です)

1.「沼」について

沼は、カイジに登場する架空のパチンコです。帝愛グループという貸金業者がバックについた裏カジノにて、数多くの人間の全財産をさらってきました。ルールはシンプル。マシンの下部にある3段クルーン、その一番奥の当たり穴に玉が入れば、今までの敗者が打ってきた玉全て(カイジが挑戦した時点で6,7億円相当)を獲得できる。

 

しかし、もちろんこのクルーンには細工がしてあり、玉がでないようになっているという寸法です。その細工とは「寝かせ」。クルーンを傾けるというものでした。

 

カイジ達は、この沼の細工を突破するため、3人でチームを結成し、ビルごと傾け傾斜を相殺するというとんでもないトリックを仕掛けるのです。


(沼を攻略するためチームを組むカイジ、遠藤、坂崎)


(トリックに気づき驚愕する、裏カジノの店主、一条)

2.建物はどれくらい傾くと危険か?

では、このトリックの実現可能性を考える前に、建物の傾きについて考えてみましょう。傾斜は施工において非常に重大な問題です。大きな傾きは、「建付けの悪さ」などに始まり、めまいがするなどの「体調の悪化」を招き、最悪「建物の倒壊」に繋がるからです。さすがに倒壊クラスとなると、余程大きく傾かないと起こりませんが、建物の傾斜は非常に厳しくチェックが行われます。

例えば、一般に「角度の単位」を考える時は「°」←の記号を使うことと思います。つまり360゜表記です。でも建築の世界では「分数」で表現します。

3/1000 (←こんな感じ)

これで「高さ1メートルに対して、横3ミリの傾き」という意味です。どうしてこう書くかというと、360゜では雑過ぎて、使えないからです。建物の傾きは、新築住宅で「3/1000」、中古でも「6/1000」以内が水準。「15/1000(高さ1メートルに対して横15ミリの傾き)」で既に「体調に影響するほどに酷い傾き」となります。

でも「15/1000」ですら、360゜表記に直すと「1゜未満」なんです。
(Tan1°=0.0174…)

3.カイジにてビルはどれくらい傾いていたか?

カイジはどれくらいビルを傾けたのでしょうか?
あくまで勝負は室内で行われているため、外から確認することはできません。ですが、玉を動かすには相当に傾ける必要があるでしょう。カジノ側は、クルーンの傾きを肉眼で確認できないよう、傾斜を3分割していました。

今回は1゜ずつ、合計3゜傾けていたと仮定します。ビルの傾きはそれを上回っていましたから、3~4゜ほど傾いていたこととなります。(ちなみにピサの斜塔の傾きが約4゜)

多分、扉が閉まらないとか、窓にヒビが入るとか、真っ直ぐに立っていられないとか、色々とハプニングがあったはずですが、カイジ世界の人たちはきっと、とても大らかで、足腰が強かったのでしょう。

では外からはどのように見えていたのでしょうか?
Tan3゜= 0.0524…
Tan4゜= 0.0699…
ですので、ビル1階分を3.5m、7階建てと考えるとH(高さ)=24.5m
24.5×0.0524=1.2838

ビルの頂上部が隣のビルから少なくとも1.3mほど飛び出ていたようです。
……鈍いというレベルじゃないぞ!一条の目は節穴か!?

4.ビルは20トンで傾くのか?

 

今回の最大のテーマです。果たして20トンでビルは傾くのか?これについては、私ではちょっと分からないので、正真正銘本物のプロの方(ゼネコンOB)に話を伺ってみました。

結論から言えば、「地盤等の条件にもよるがそんなに傾くことはありえない」そうです。

まず前提として「カジノのあるビル周囲は地盤がやわい」という話が登場します。またカイジはカジノの傍でビルの傾きを修正する工事が行われていることを目撃しています。普通はやわいとわかっている地盤で、対策もせずにビルを建てることはありません。

ここでちょっと地盤に関する基本の話をします。

「沈まない地盤」は存在しません。どんな建築物も超重量物ですから、頑強な地盤だろうと「全く」沈まないことはありえない。では「やわい地盤」の何が怖いかというと、「不同沈下(傾いて沈むこと)」を起こすことと、「液状化(地盤が液状になる現象、建物が沈む)」を起こすことです。全体が等しく沈んだなら、配管に影響がでるほど極端に沈まない限りさして問題にはなりません。だから建物が均一に沈むよう「どれくらい沈むか」予測して、基礎の構造、杭の種類、長さ、地盤改良工事の有無、施工方法などが計画されます。

建物は「計算ずくで沈む」のです。

もちろん、予定外の沈み方をすることもあります。また、「周囲の土地で掘削や水の汲上げが行われた時、地盤条件が変わり、建物が傾く」ということもあるそうです。そういう時は傾きを修正する工事が必要になります。(作中の工事はおそらくそれを描写したもの)

 

それでもあくまで「年単位」でじわじわと沈むものなので、「1日」であれだけ沈むことはありえない

 
(カイジは自分の計画を「じわじわ」と言っているが、建築業界基準でこれを「じわじわ」とは表現しない。「ズブズブ」でも足りない。「ゴゴゴゴ」と沈んでいる)

やわい地盤では、戸建住宅の規模でも地盤改良工事が行われます。ましてRC造7階建ての建物であれば、地下の固い地盤まで杭基礎が伸びている可能性が濃厚。20トンではそうそうびくともしません。(土質が砂質土が粘性土か、採用している杭が摩擦か先端支持か、諸々の条件が分かっていませんが、それでも実現可能性は乏しい)

まとめ

・3分割された傾斜を上回るほどに建物を傾けたら、非常に危険
・建物に異常が発生し、体調不調を引き起こし、肉眼で傾斜がわかるレベルなので、傾きに気づかないことはありえない
・いくらやわい地盤でも「20トン」程度の荷重で「1日」で沈ませることは不可能

なんだか、悲しい結論が出てしまいました。ただ、私たちが住んでいる家やビルは、水道を出しっぱなしにしたくらいで傾くことはない、ということは分かりましたので、明日から安心して眠れますね。

それから、ビルを傾かせるトリックは人命を危険にさらしますので、7億のためでもやらないで(笑)。ギャンブルに熱くなるのはほどほどにしたいですね。

参考
福本伸行 著「賭博破戒録カイジ(5)~(12)」講談社

更新
2018/03/23 見出しのデザインを変更

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