書評<「正直不動産」勝手に解説!その2ー敷金返還請求ー>

相場に比べて安すぎるのは、必ず理由がある
(「正直不動産1」より)

ユーモラスに「不動産仲介業」の実態を描く漫画、「正直不動産」。コミカルに描く分、用語の解説が少なかったり、素人目にも結構大げさに描写されている部分があると思い、正直不動産に登場した内容を解説するため立ち上げた今回の企画。


前回の記事では媒介契約についてお話しましたが、第二回のテーマは、「敷金返還請求」です。

賃貸物件において、退去時に戻ってくるはずの敷金。悪徳オーナーになるとあれこれ理由をつけて返してくれず、トラブルの種になるのですが、例えばどんなトラブルがあるのか?対抗策にはどんなものがあるのでしょうか?考えてみましょう。


正直不動産(1) (ビッグコミックス)

目次
1.「正直不動産」敷金・礼金泥棒 あらすじ
2.1.敷金返還請求
2.2.入居時の対策
3.まとめ

1.「正直不動産」敷金・礼金泥棒 あらすじ

登坂不動産の敏腕営業マンとして活躍する主人公「永瀬財地」。彼はある日、不気味な祠を壊して以来、嘘をつけなくなっていた。

自分の変化に戸惑う中、彼は登坂不動産の新人「月下」を教育することになるが、月下が初の契約を取ろうとする場面で、彼は不動産の裏事情を顧客にぶっちゃけてしまう。

登場人物

永瀬財地
登坂不動産の敏腕営業マン。ある事件を機に社交辞令含め、一切の嘘がつけなくなってしまう。

月下咲良
カスタマーファーストが信条の新人営業マン。かなりバカ正直な性格で永瀬にたびたび呆れられている。

柿沢親娘
4月からの大学での新生活のため、物件探しをしている父娘。昨今は物騒な事件も多いと、セキュリティのしっかりした物件を希望しているが…

2.敷金返還請求

1話~2話に登場する柿沢親娘。2人は、4月より大学生になる娘のため、一人暮らし用の物件探しに登坂不動産に訪れます。

要望は「大学まで30分」「2階以上のマンション」「セキュリティ充実」「予算8万」とかなり欲張りな内容ですが、月下は一晩中物件情報をあさり、条件にあう部屋を探し出します。

事故物件でもなし、オーナーさんも気さくないい人。柿沢父娘も部屋を気に入り、トントン拍子に話が進んで契約は目前でした。が、

こんなクソみたいなオーナーの物件には、金をもらっても住まない

と、永瀬がぶっちゃけてしまいます。
相場なら10万オーバーの部屋が8万円。なぜそんなに家賃が破格なのか?

永瀬の推測は、「敷金・礼金」で利益を出しているというもの。入居者が入るなり、大家は入居者に嫌がらせを繰り返して部屋から追い出す。

部屋にはわざと「悪趣味な、汚いカーペットやカーテン」を置いておき、入居者がそれを処分したら「原状回復」を盾に敷金返還を拒否する。入居者が入れ替わる度に敷金・礼金が入るので、激安の家賃でも多くの利益が出るという仕掛けです。

「それをわかって契約させようとしたのか?」と、柿沢父は憤慨して出ていってしまうのでした。

「原状回復の範囲はどこまでか?」解説

1.原状回復の基本

原状回復にまつわるトラブルは多々あります。国民生活センターに寄せられている相談件数は、毎年約1万4,000件。

よくある相談が、あらゆる損傷の補修費を借主に負担させたり、異常に高額なクリーニング代を請求したり、といったものです。

基本的な考え方としては、国交省のガイドライン(概要本文)で
—————————————-
貸主負担
・経年劣化
・通常使用による損耗

借主負担
・借主の故意・過失、通常の使用を超える使用による汚損・毀損
—————————————-
とされています。
無論、トラブル案件の中には特約で、自然損耗分も借主負担にする、あるいは入居者が変わるごとに全ての畳の張替え費用を請求する旨を記載するといったケースもあるのですが、判例上は無効とされる場合が多いようです。
(参考:賃貸住宅の原状回復特約 特にクリーニング特約についての一考察


2.設備の破棄

では「カーペット・カーテンの破棄」はどうなるのか?残念ながらこれは「通常使用」の範囲には含まれないため「借主負担」になると考えられます。賃貸物件の設備は、基本的に部屋と一体になって提供される大家の所有物で、勝手に捨ててはいけないのです。

賃貸物件の設置物には大家が機能を保証する「設備」と、前入居者が残していった「残置物」があり、設備は大家の所有物、残置物は借主の所有物となる。よって例外的に、残置物は勝手に捨てても問題ない。ただし前入居者が残したものは一度大家の手に渡るので、「◯◯は残置物であり大家は責任を持たない」条件で契約しない限り、設置物は全て「設備」と解するのが通常である。

原状回復は、建物本体以外に備品にも広く適用されるので、「エアコン」も「照明」も「カーテン」も全て元に戻すことが原則。「電球」一つとっても、最初に付いていたなら置いていく、付いてなかったら外すのです。あまり厳格にルールを適用するとかえって不便なので、両者合意の元でならいくらでも変更は可能ですが、今回のケースは敷金から交換費用を請求されても文句は言えないでしょう。

 

「敷金返還請求」解説

カーペットやカーテンの交換費用に敷金を当てることについては、大家の正当な権利です。問題となるのは、「敷金一ヶ月分(8万円)の全額が没収される」点。大家に正当性が認められるのは交換費用分だけなので、よっぽど高級な製品でもない限り8万円もかからないでしょう。2、3万円あれば充分な品質の製品が買えるので、少なくとも5万円は戻ってくるはずです。

ではなぜ永瀬は、「敷金は戻ってこない」と断言したのか?その理由はおそらく「大家に敷金を返す気がさらさらないから」。先述の通り、ルールに従うなら5万円は戻ってくるのですが、大家にはじめから返す気がないなら、返還の難易度は急上昇します。相手が持ってないお金を諦めさせるのは簡単ですが、持っているお金を奪い返すのは大変なのです。

もし本気でお金を奪い返そうと思ったなら、法的拘束力を発生させるため「裁判」を行うしかありません。額の小ささから見て「少額訴訟」の案件ですが、司法書士に依頼したとして相談料と訴状の作成料だけで4,5万円ほどかかるでしょう。また、私が悪徳オーナーなら万一裁判になった時に備えて、「立派な高級カーペット・カーテンのついた部屋の写真」程度の小道具は用意しているかもしれません。要するに、「おそらく割に合わないので泣き寝入りする確率が高いだろう」ということです。(手続きを全部自分でやれば黒字になる希望はありますが)

敷金返還請求について、少額訴訟制度の普及により泣き寝入りは少なくなっていますが、まだ完全ではないですから、事前の対策は不可欠と言えるでしょう。

2.2.入居時の対策

こうした敷金トラブルに合わないためにはどうすれば良いのでしょうか?少額訴訟という手もありますが、あくまでも最終手段ですし、勝訴する保証も敷金が全額返ってくる保証もありません。

まずできる対策は「安い理由のわからない物件は避ける」こと。理由もなく安い物件は掘り出し物件ではなく爆弾物件だと考えるべきです。「共益費や更新料が異常な価格に設定されている物件」などは、悪質な例ではまだマシな部類です。最悪、「表面だけ綺麗に改装された、今日倒壊してもおかしくないボロボロ物件」に住むハメになるかもしれません。

第二に、手っ取り早くかつ効果的な手段は「入居時に写真を撮りまくる」ことです。たとえ目に見えて大きなキズがなくとも、ほんの僅かな汚れやキズまで指摘されれば、最初からあった損耗かは誰にもわかりません。(本来、「債権者の立証責任」により、その辺りの証拠は貸主側が提示すべきなのですが…)

でも写真があれば、無駄な言い争いは回避できます。悪徳オーナーでも、しっかり証拠を揃えている相手に喧嘩を売ろうとはしないでしょう。

写真撮影の注意点として、部屋に荷物が入る前に行うこと、賃貸契約書と一緒に保管しておくことを推奨します。

主なチェックポイントは
.壁・天井・床に汚れ・キズがないか?
.設備機器の汚れ・キズがないか?ちゃんと動作するか?
.網戸の破れがないか?
.建具がきちんと開閉するか?
.水廻りにカビ・水漏れがないか?

また、キズを近くから一枚撮るだけでは、部屋と破損箇所の位置関係がわかりませんので、離れた位置からも複数枚撮影しておくと良いでしょう。

3.まとめ

・賃貸において「勝手に」備品を捨ててはいけない
・敷金を返す気のない大家から敷金を取り返すのは大変
・借主にできる対策は「理由なく安い物件を避ける」ことと「入居時に写真を撮りまくる」こと

次回は「サブリース」について取り上げます。

おすすめ度: ★★★★

 

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